2011年の東日本大震災により危険な状態となっていたメインフロア内の一部崩落していた壁と、かねてより崩落状態が続いていた旧玄関内部を修復しました
修復には大掛かりな工事が必要となり資金面で困難なことからどちらも簡易的な応急処置をしていたのみでしたが、スタジオ利用者や来館者が増え皆様の安全のためにもそして建物のためにも早々に施工しなければならない箇所でもあるため頭を悩ませていました
そんな折、毎月行っているアトリエ公開日に見学にいらっしゃった建築家の方が大掛かりな工事とまではいかずとも修復が可能であること、更には資金も比較的抑えられることをご提案頂きまして、今回の施工へと至りました

Before

壁の崩落箇所は和紙で隠しており寄りかかり注意の張り紙をしておりましたが、もし誤って力強く寄りかかってしまうと一気に壁全体が崩落してしまうほどの危険性があり、写真の崩落箇所以外にも上側が内部で崩落や腐食している可能性もあることから、施工時に実際開けてみないとわからないような状況でした
旧玄関内部については何十年も前に窓が壊れ波板で応急処置をしたままなことや8年前に雨漏り等による腐食が発覚し補修工事をしたことなどからも、もともと空気の循環が悪く湿気がこもりやすい空間になってしまっていたことで8年前の補修工事以降も更に雨漏りが続き更なる腐食からの崩落が進んでいた状況となってしまい、この建物の中でも一番損傷が激しい部屋となっていたため物置部屋として利用者には立ち入り禁止区域として開放していませんでした
8年前の工事の様子を綴ったブログはこちら
アトリエ壁補修感謝 – アトカル

(メインフロア)壁の取り外し〜補強〜塗装〜完成

建物老朽化もあり工事中の振動によって施工箇所以外に被害が出てしまう恐れもあり壁を取り外す際には慎重な作業となりましたが無事施工箇所の壁を取り外すことができました
壁の裏地を補強し板を貼り付け塗装作業へと入ります
ペインターさんによる他の箇所と違和感のない塗装によって補強もでき見た目も変わらない仕上がりとなりこの建物として最適な修復手段となったかと思います

(旧玄関)壁の取り外し〜窓の設置

旧玄関については当初窓の修復のみを予定しておりましたが室内の他部分の劣化が激しいことから壁を含め一気に補修を行うこととなりました
雨漏りによる裏地木材の腐食劣化からモルタル壁も地震等による影響を大きく受けるようになり一部危険な崩落状態となってしまっており、この機会にすべて安全に取り外し補強修復することができました
窓に関しては古い文献等を探し当時のものに似せた窓を再現しました
また外側に花壇を作り鏡面を作ることで外のグリーンが反射し部屋内部が明るくなるよう設計しています
この部分に窓を復活させることによってこの部屋のみならずアトリエ内部にも空気の循環を作ることができ、危険な暑さとなる夏の高温期にも少しの安らぎを与えることができる存在となるようになっています

(旧玄関)屋根補修

旧玄関内部の修復を進めるうちにここまで損傷が進んだ原因が屋根からの雨漏りにあるということになり、8年前に行った旧玄関の屋根補修工事を改めて見直し再度補修工事を行うこととなりました
本来の屋根の部分は中央が四角く窪んでおりその中に排水口があり建物内を通り横の壁に取り付けられたドレンへと排水されるようになっていますが、竣工当時を再現するには大規模な防水工事を行う必要があり資金の問題から難しいことから今回は見送ることとなり前回と同じく波板による補修工事となりました
前回同様建物自体に防水加工を施すのではなく雨の侵入を防ぐために波板を設置するため見た目は竣工当時とは異なってしまいますが、工事の途中に竣工当時のように屋根に何もない状態を地上から見る機会がありその美しさにやはりいずれは大規模な防水工事を行い竣工当時の屋根を再現したいと強く思うことができアトリエ修復の夢がまた少し広がりました

After

旧玄関内部は窓のみの設置だけではなく部屋内の修復と屋根の修繕とまで工事が広がったことで当初より大きく資金がかかってしまいましたが、窓による外光の明るさに加え内部の壁を白で新しく塗ってもらったことで以前に比べ非常に明るい空間となり、さらには壁の補強と屋根の補修を行ったことで旧玄関自体の強度も上がり、当初の窓設置による建物全体への風通しの向上だけでなく機能面でも安全面でも改善した修復となりました
また窓はスライドして開く窓で、窓の形に沿って作られた板を使ってロックする構造となっています(写真4,5枚目)
旧玄関内部の赤い扉側の壁が比較的安全であったことからその壁だけそのまま残すこととなりましたが、施工終了後に起きた比較的大きな地震の影響で壁にクラックが入り安全面から壁を一部取り外しています(写真8枚目)
床のタイルに関しては、白いタイルは今後修復予定となっています(写真3枚目)が、黒いタイルの部分は恐らく当初靴置き等があり取り外した際にタイルごとなくなっており再現も難しいことからこのまま残すこととしています(写真6枚目)

施工終了後に比較的大きな地震があり、今回この工事をしていなかったらと思うとこのタイミングで工事ができたことに非常に安心しています
アトリエはもうすぐ築90年を迎える古い建物なので地震等の自然災害にとても影響を受けます
建物内クラックが多数はいっており地震があっても新たにどこに亀裂が入ったかもはやわからない状況ですが、その小さな一つの亀裂がやがて大きな問題へと繋がる危険性もあります
とはいえ老朽化が進む建物全体を大規模な補強修復工事で一気に補修を行うことは、私共のように個人で文化財を管理している身では資金面で不可能な状況です
現在は建物の有効活用としてスタジオ貸しを行い資金を集めこうして少しずつ修復をしていくしか手段はありませんが、このアトリエという場に集まった様々な方々のご助言ご協力もあり皆様で修復を進めていくというひとつのおもしろさも感じています
まだまだ修復が必要な箇所が山積みではありますが少しずつ少しずつなおしていき竣工当初の美しい姿に近づけていけたらなと思っております

今回、設計施工をして頂いたGROUPの皆様、この場を借りて感謝申し上げます
GROUP

2023年6月 アーキテクチャフォト様にて本工事に関する記事を掲載していただきました

GROUPによる、東京・中野区の「三岸アトリエの手入れ」。20世紀初頭竣工の山脇巌の木造モダニズム建築を改修。様々な箇所の応急処置的補修を改善すべく、資料から原型を想定した上で現在の環境にも適合する意匠を探求。自ら建築に触れて判断する“手入れ”の態度で行う | architecturephoto.net